桜三昧


桜前線が73日かかって日本列島を北上し、平年より10日ほど遅れてようやく最北端の稚内に達したというニュースが流れた5月22日、奇しくも八ヶ岳山麓では 、最も遅咲きの桜・ミヤマザクラが開花した。

ミヤマザクラは野生種の桜の中でも開花が最も遅い種の一つで、花期の遅さから花が開いたときには葉が出ていることが多い。 上向きに咲いた花は小さく、白い花弁から長く突き出た先端が黄色いおしべが可愛らしい。この花が咲き終わってしばらくすると、八ヶ岳山麓にも初夏が訪れる。

さて桜は我々日本人にとっては春到来を告げる花として、古くからなじまれてきた花であるが、多くの歌人に詠(よ)まれてきた 代表的な花の一つでもある。

ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花ぞ散るらむ

国語の教科書に広く採用されており、百人一首の中で最も有名な歌の一つであるこの歌は、平安時代の歌人である紀友則(きの ともなり)が春の日の花びらの散る様子を詠んだ歌である。

願はくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月のころ

平安時代の歌人の一人である西行法師が花(サクラ)を愛したことは よく知られている。彼は有名な吉野山の桜を多く歌にして いるが、その中でもこの歌は特に有名で、法師はこの歌に詠んだとおり、旧暦きさらぎ(2月)の16日に入寂している。

その桜であるが、最も馴染みのある種はソメイヨシノである。一般的に気象庁が出している桜前線の開花予想は、このソメイヨシノを対象にしている。標高1000mの我が郷里、八ヶ岳山麓では ソメイヨシノやエドヒガンは平年4月20日から25日頃に満開を迎える。

しかし、5月の空に鯉のぼりがたなびく連休明けになっても、山桜などの野生種が次々と咲き、5月の末頃まで高原の風景を彩ることになる。桜は野生種、山桜、園芸種などに 分かれるが、それぞれに多くの種類があり、我が家の近くで咲くものだけでも20種類を超す。

今年は、少し時間が取れたので、同じ桜でも花の色や形、それに花の咲く向きなどが異なる多種多様な桜の姿を じっくり観察してみようと、カメラを片手に出かけてみた。撮影した写真を掲載したが、その中には皆さんがはじめて目にする種もあるかもしれない。

ウコンザクラ、ウワミズザクラ、ミヤマザクラなどがその珍しい種の一つであるが、中でも「ウワミズザクラ」の花弁はその形状が一般の桜とはまったく異なっているので、目にし たことがあったとしても、それが桜の一種であることを知らずにいる人は多いはずだ。

花弁が白やピンク色をした桜はいろいろあるが、「ウコンザクラ」は花弁が珍しく黄色で桜とは別の種の花と勘違いしてしまいそうである。近づいてみると薄い黄色の花びらはなかなか可憐で、 艶やかである。

また、「ミヤマザクラ」は別名「シロザクラ」と呼ばれるだけあって、花びらは白く、先端は丸くて他のサクラ のように切れ込みがない。花びらは5枚。2pほどの小さな花が上向きに咲くのと、 長く伸びて突き出ている黄色い雄蕊(おしべ)が特徴的である。
 

不安なニュース

話は変わるが、最近八ヶ岳山麓の桜に「てんぐす病」が発生し始めているようである。てんぐす病というのは枝の一部があたかも天狗が巣を作ったように、こぶ状にふくらんで大きくなり花をつけなくなる病気である。空気感染する病気なので非常に危険で、桜の名所を衰退させる大きな要因の一つとなっているだけに心配である。

折から宮崎県では口蹄疫(こうていえき)の被害が急速に拡大し、感染確定・疑いのある農場が70近くになり、殺処分の対象になる牛や豚が8万 5000頭に達している。次々と殺されていく牛たちもかわいそうだが、長い間、品種改良を重ねて飼育してきた農場主も気の毒である。人間だけでなく、植物も動物もおかしな奇病が流行りだして 来ているようで、不安である。

 

 

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五月晴れの空に280体の鯉のぼりがなびく
 

 

 
 

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樹齢2000年といわれる高山神代桜 (エドヒガンザクラ)
日本武尊(やまとたけるのみこと)が植えたと言われている。

 

 

 



 

     

 

 



 



 

     

 



 

     

 



 

 


ウコンザクラ
 

ウワミズザクラ

 



 



 


ウワミズザクラ
 

 

ミヤマザクラ