オオムラサキ
隣町(長坂町)のひなびた温泉「深沢の湯」の周辺は、国蝶「オオムラサキ」の群生地として知られている。
「オオムラサキ」がその周辺に生息しているのは、温泉の主人が30年ほど前から「雑木林の妖精」と呼ばれる、あの紫と黄色の美しい羽に魅了され、屋敷の周辺に数十本の「榎木」(えのき)を植樹したためである。
榎木の葉の裏側に産卵する雌
オオムラサキは榎木の葉に産卵する。産卵から1ヶ月、孵化した幼虫は1齢幼虫から4齢幼虫へと脱皮を繰り返し、蛹化(ようか)する。蛹(サナギ)は「榎木」の葉を食べて成長し、その後、成蝶は「クヌギ」の木から出る樹液を好物とする。
八ヶ岳山麓一帯には、かって「榎木」や「クヌギ」が今以上に植生していた。しかし戦後、山麓の開拓が始まるとそれらの樹木は年々減少し、それに併せて、オオムラサキもその数を激減していった。
撮影のため、樹液を出すクヌギの木の近くで待っていると、美しい羽を陽に輝かせて十数羽の雄雌が次々とやって来る。カブトムシや蜂(ハチ)と一緒に樹液の周辺に群がり、樹液を吸う。しかし、その最中は羽を閉じているため、魅力的な羽の撮影はことのほか難儀である。
時間をかけて待っていると、お腹を満たした一羽が近くの漆(うるし)の葉に止まり、羽を広げて一休みするときがある。このときが撮影のチャンスだ。
雄の紫色、雌の黄色の縞模様は陽の当たり方で、その色合いを変化させ、幻想的な美しさを見せてくれる。しかし、楽しげに飛び交う彼女たちも、もう何日かすると、「求愛」、「交尾」、「産卵」の短い一生を終え、地に帰っていく。
撮影日 : 7月の最終週