サンコウチョウの巣立ちを追う

今ではめったに見かけなくなった「サンコウチョウ」を山麓の広葉樹林の中で見つけたのが、6月の初旬。その後、幸運なことに私の写真の師匠である桑島献一先生が巣を発見。

体長が大きい(雄:45センチ 雌28センチ)割りには巣は小さく望遠鏡で眺めてみると、十数センチぐらいの大きさしかない。その上に、この鳥は林の中の暗いところを選んで巣作りするため、巣の発見は至難の技といわれている。教えられた巣を遠くから眺めて、よくこんな小さな巣を見つけたものだと感心することしきりであった。

それ以降、数人の写真仲間で観察を続けていると、17日から、親鳥が孵化(ふか)した雛(ひな)に餌(えさ)を運び始めた。桑島先生の経験では、孵化から巣立ちまでの日数は10前後であるという。実際、巣立ちが27日の早朝であったから、先生の予想は完璧であった。

雛(ひな)の成長の早さは驚ろくほどで、特に巣立ち直前の羽の生え方は驚異的である。2日ほど前までは首の辺りはまだ肉肌が見えていたのに、翌々日にはあっという間の巣立ちである。

時間をかけて観察していると、生き抜くための小鳥たちの不思議な知恵が随所に見えてくる。

雛に餌を与えた後の親鳥は、普通は巣の近くの枝を転々とした後、餌を求めて飛び立っていく。ところが、巣の中から雛の糞(ふん)を加えて飛び立つときは、途中の小枝に止まらず一気に南側の渓谷に飛び立っていく。

渓流の上に行って糞を落とすためだ。なぜ巣の近くに糞を棄てないのかというと、落とした糞の臭いをかぎつけて、大敵である蛇やカラスが巣を見つけ幼鳥を襲ってくるのを避けるためである。

巣立ちの日、巣の淵に止まった雛が巣の外にした糞(当然落下していくことになる)を、親鳥が飛び立って空中でダイビングキャッチする場面を目にした。我が子を外敵から守るためには、親鳥はそこまで神経を使っているのだと、感心させられる一場面であった。

また、ある日、突然の強い夕立が来たときのこと。雌鳥があっという間に帰巣し、羽根を一杯に広げて強い雨から雛を守っている場面に遭遇した。おのれの体温の低下など意に介せず、いつまでも豪雨に打たれている姿は感動的であった。

7月27日は朝から久しぶりの晴天。4匹の雛にとって、まさに「いい日旅立ち」であった。元気な巣立ちを見届けた後、雛達の無事の成長を願いながら、ラジオ番組出演のため甲府に向かって車を走らせる私の心も、雲一つ無い快晴であった。

サンコウチョウ(ヒタキ科)

「サンコウチョウ」は東南アジアから4月の下旬から5月上旬にかけて飛来する夏鳥。目の周りがコバルトブルーで頭部は黒く、胴体は赤褐色をしている。雄の体長は45センチほどあるが、その3分の2が尾羽根。鳴き声は独特で、「ツキ(月)、ヒー(日)、ボシ(星)、ホイホイホイ」と聞こえることから三光鳥の名が付けられている。また「ホイ、ホイ、ホイ」という朗らかな声から、「馬追い鳥」という別名もある。、

巣の周辺が薄暗い上に、親鳥にできるだけ負担をかけまいと離れた場所からの観察と、写真撮影であったため、ピント合わせと尾羽の色を出すのは大変であったが、なんとかそれなりの写真を撮ることができたので、ご覧頂くことにする。

駆け出しのアマチュアカメラマンが21日間、およそ80時間かけて追い続けた産卵から孵化、そして巣立ちまでの記録である。

 

                      参考文献 : 『日本の野鳥』 (竹下信雄著 小学館刊)

                                  『日本の野鳥』 (山と渓谷社刊)

 

 

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6月8日

桑島献一先生が巣を発見

コバルトブルーの目と長い尾羽が印象的だ

 

6月10日

卵を暖める雄

卵のうちは雄雌交互に暖めるが、孵化した後は雄は暖めないようだ

6月17日

孵化した雛に餌を運ぶ
雌の親

 

6月18日

雄と雌が揃った珍しい
シーン

こんなシーンは20日間の観察中、一度しかお目にかかれなかった


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6月20日

黄色いクチバシを開ける雛達の姿が見えるように
なった

 

6月22日

孵化したばかりの雛があっという間に大きくなっていく

6月27日
旅立つ日の早朝

巣立った一匹の雛が小枝の左側に止まっている

6月22日

雛に餌を与えた後、近くの小枝に止まってくれた瞬間、幸運にも撮影することができた