ヤマル号第10日目

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8月30日(金)

遠く離れた日本では今日は私の本『謎多き惑星地球』が全国の書店の店頭に並ぶ日である。

天候は朝からやや荒れ模様で、波が少し高い。スタッフに聞くと弱い低気圧が通過中だとのこと。船は北緯87度まで南下しノバヤゼムリア島にはあと120キロほどであるが、島に到達するまでにこの天候は回復しそうもないようだ。

午前中太田先生のノバヤゼムリア島の話を聞く。細い海峡によって二分されたこの島は、大陸の近くにあるため発見の歴史はだいぶ古く、すでに17世紀はじめには捕鯨基地として使われていたようだ。

ウラル山脈から続くこの島は、東にカーブしながらほぼ南北に延びているが、西側バレンツ海側はメキシコ湾流の支流が流れ込んでいるために、東側に比べると2度ほど高く、年間の平均気温が零下5度。

海岸線から数キロ〜数十キロ内陸部に平均気温零下11度の等温線があり、この内側が氷河のエリアとなっている。因みに、氷河の先端は年々後退しており、一つの氷河を例にとると、1952年から1993年の40年間の後退距離は約4キロになっている。つまり、1年で約100メートル後退している計算になる。

この後退速度は北へ行くほど速いようだ。シベリアやアラスカの凍土の溶解状況と併せて考えると、地球全体が暖かくなっていることは間違いないようだ。


北極圏での核実験と汚染状況


ところで、ソ連邦時代、核実験がこの島で行われたことをご存じだろうか。島を二分しているマトチュキン海峡を挟んだエリアで、およそ20数回の核実験が行われている。実験の中には地上だけでなく、地下や海中実験も含まれており、その間の爆発量は50年代以降行われた総実験の90パーセントに達するという。

そのため、島や近くの海辺に生息する白クマやセイウチなどの多くの動物が、犠牲になったようだ。現に、90年代のはじめの調査では、島の周辺やバレンツ海、カラ海の海域では大きな放射線の残存量が示されており、特に海峡を挟んだ実験エリアでは2桁違いの異常値が測定されている。

核実験とは別に、ロシア政府としてはこの島に放射能廃棄物の処理場を計画しているという。島内の永久凍土の地下に4〜500メートルの穴を掘り、そこに原子力発電や原子力潜水艦で使われた放射能汚染の廃棄物を投棄しようというわけである。

そこへは、ロシアだけでなくヨーロッパ諸国の分まで引き受けて投棄する予定だいう。いくら防錆や防腐の特殊な加工を施したケースに入れて埋めるとはいっても、地殻変動などによって放射能が外へ漏れないという保証はない。人類の将来を考えると暗澹(あんたん)たる思いに駆られる.。

ロシア政府も外貨獲得のためなら、将来のことなどかまっておれないというところだろうか。因みに、先の小泉総理の訪ロの際、原子力潜水艦の放射炉廃棄のための多額の支援が要請されたようだが、ブッシュ大統領は就任早々、クリントンが始めたロシアの核兵器や核施設解体支援から1億ドルを削減している。500兆円を超すGDP比最大の借金国日本が、なにゆえアメリカの肩代わりをしなければならないと言うのだろうか。

我々は、輝くばかりの白い氷原に覆われた北極や南極には、澄んだ空気と清らかな海のイメージを描きやすい。しかし、これらの地ももはや決して理想的な環境ではなくなっている。先進国の汚染物は大気と海水の循環によって、両極地にも遠からずして流れ着く。その結果、今や北極圏も、他の海洋や陸地と変わらぬほどに環境汚染が進んでいるというわけだ。

現に、ホッキョウグマ250頭の雄を生体調査した結果、その内の7頭から「雄雌両性症状」が発見されたという。この4パーセント近い数値は、遺伝子の突然変異の確率値とは何桁も違う異常な大きさだ。これらの数値が汚染されたプランクトンや海草類からの「食物連鎖」による結果であることは、もはや間違いない。

最近、東京の多摩川の魚を調査した結果は一桁高い数値だったように記憶しているが、先進工業国から遠く離れた極地の動物にも、このような高い数値が出ていることは、なんとも恐ろしいことである。

「ムルマンスク」へ

低気圧接近のため、午後に予定していたノバヤ・ゼムリヤ島上陸と、ヘリコプターから氷河を眺める試みは中止となる。氷河の遊覧飛行は出発前から楽しみにしていたので残念至極であるが、天候のためなら諦めるしかない。しかし翌日、我々一行は天の采配してくれた、これに勝る喜びに遭遇することになるのだ!

そのような幸運が待っているとは露知らぬ我々は、ゼムリア島に別れを告げ、一路ムルマンスクへと帰路につく。北緯75度を過ぎた今夜は、さすがに10時を回る頃から暗くなってきた。今宵は、久しぶりに窓から日の差す明かりを気にせず休めそうだ。

 

 

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ヘリから眺めた

テゲットホフ岬@

 

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南極横断隊のメンバー
だった船津圭三氏

 

ビクトル・ボヤンスキー氏

島からの展望@

 

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A

 

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撮影する写真家の
島内先生

C

 

                            次回は、いよいよ「北極点に立つ」の最終回です!

                                           

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