EU に忍び寄る新たな不安

気になる二つのユース

ギリシャの議会選挙で緊縮策の継続を主張する与党政権が勝利し、３党による連立政権が誕生したことからギリシャのユーロ離脱問題は一先ず先延ばしとなったものの、財政再建に目途が立ったわけではなく、日に日に財政危機が深まっていることには何ら変わりはない。

ギリシャの新政権発足以来初めてのEU首脳会議が28日から2日間の予定で、ベルギーの首都ブリュッセルで行われる。会議では金融危機の深化を防ぐ為、銀行の監督権限などを一元化するいわゆる「銀行同盟」の創設につながる法案や「欧州共同債」の発行などが論議されるようだが、それらはどれもそう簡単に結論が出されるほど簡単な案件ではないので、結論は先送りとなるものと思われる。

そうした不安定な状況が続く中、二つのショッキングなニュースが飛び込んできた。一つは「ギリシャで米マイクロソフトの社屋襲撃、車激突し炎上」というニュースである。
　


	米マイクロソフトの社屋に突っ込み炎上した武装集団が乗り込んだ車

６月２７日、ギリシャの首都アテネで米マイクロソフトの社屋を襲った武装集団の車にはガスボンベ３本とガソリン入りの缶５つが積まれており、武装集団は車で建物に突っ込んだ後、車両に火を放ったという。警察はまだ犯行グループを特定できていないようであるが、車には拳銃やマシンガンも積み込まれていたようなので、打ち合いにならずに済んだだけ幸いであった。

近年ギリシャでは、高まる失業率などを背景に、銀行や外資系企業が放火される事件が頻繁に発生しており、今後、財政緊縮策が実行に移されるにつれ、こうした事件がさらに増加する可能性が大きい。

そうした傾向は何もギリシャに限ったことではなく、財政危機に陥っているスペインやイタリアでも同様のようである。またそうした国々の国民の間に、ＥＵ（欧州連合）の指導的立場に立っているドイツに対する敵愾心が膨らんで来ていることも新たな不安の種である。

二つ目は「独首相態度を硬化で、EU首脳会議に暗雲」というニュースである。ドイツの連立与党の会議で２７日、メルケル首相は「私が生きている間に、欧州の債務共有化はない」と発言したというのである。これは首相のユーロ共同債などの再建の共有化を拒否する強い意思表示であり、これから先の債務国救済が容易でないことを示す､重要な発言である。


	ＥＵとユーロのの命運を握るドイツのメルケル首相

前日の講演でも首相は「債務に対しての共同責任を意味するユーロ共同債、共同証券、欧州預金保険は、経済的に間違っているし非生産的だ。ドイツの憲法にも反する」とし、さらに「サミットでの協議では、またしても、債務の共有化に関する構想についての話があまりに多く、一方で監視の改善や構造的措置については議論がまったく足りないという状況に陥るのではないかと懸念している」とまで述べている。

こうした発言を聞くと、これから先､次第にドイツを中心とした北ヨーロッパの国々と、フランスを中心とした南ヨーロッパの国々の間で、激しい対立が起きてくる可能性があり、ギリシャのユーロ圏離脱以上にＥＵ圏における南北間の対立や、フランスとドイツとの対立という大きな難問に直面することが懸念される。これもまた新たな不安の種である。

今日からＥＵ首脳会議が始まり、金融危機の深化を防ぐ為、スペインの銀行への融資やギリシャ支援の条件の緩和案などが打ち出されることと思うが、発表されるマスコミ報道の裏でユーロとＥＵ崩壊への暗雲が次第に立ちこめ始めて来ていることを、見逃さない事が肝心である。